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CO2の排出権取引とは何か?日本で運営されているJ-クレジットも解説

更新日:2021.11.26

SDGs・脱炭素

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環境問題への取り組みが世界的に注目されるなか、CO2削減は多くの企業が取り組むべき共通の課題ともいえます。

しかし、環境問題に取り組むことで経営効率が低下したり、収益に悪影響を与えてしまうケースも少なくありません。そこで検討されているのが、CO2の排出権取引とよばれる制度です。

今回の記事では、CO2の排出権取引とはどのような制度なのか、日本ですでに運営されているJ-クレジット制度の内容、排出権取引制度が始まることで企業にどのような影響があるのかも含めて詳しく解説します。

排出権取引とは

排出権取引とは、国が企業に対して割り当てたCO2の排出枠を売買することを指します。

たとえば、排出上限枠が100のA社とB社があり、A社の排出量が50、B社の排出量が150と見込まれる場合、A社はB社に対して50の排出枠を売ることができます。これにより、B社の排出上限枠は100から150へ増えますが、全体として見たときにトータルのCO2排出枠は変わらないことになり、国全体で着実にCO2の排出量を削減できるのです。

また、排出権取引が定着することで、企業はできるだけCO2排出量を抑えようと努力し、実際に排出量が削減できれば余った排出枠を販売し利益に結びつけることができます。環境問題は重要な社会課題であることを認識していても、企業にとっては自社が生き残っていくための経営努力もしなければなりません。CO2排出量を削減できたとしても、それが利益率の悪化につながり経営に影響を及ぼすようでは本末転倒です。

環境問題への取り組みをすべての企業の経営課題に結びつけ、CO2を削減することで経営上のメリットを得られるようにしたのが排出権取引制度であると考えることもできるでしょう。

なお、排出権取引制度は「排出量取引」ともよばれますが、日本全体では制度として導入されていないのが現状です。東京都や埼玉県のように自治体ごとで制度を運営しているところもあれば、「J‐クレジット」のように参加者のみで運営しているケースに限られています。環境省では「国内排出量取引制度(キャップ・アンド・トレード)」という名称で制度化を検討していますが、国内全体で制度そのものを否定的に捉える見方も多く、前向きな方向で進んでいるとはいえないのが実態です。

一方、世界全体を見てみると、アメリカやヨーロッパを中心に積極的に進めている国も存在します。排出権取引制度は世界的な流れでもあることから、日本でも今後国として制度化が進められる可能性は十分あり得るでしょう。

排出権取引における価格

排出権取引の基本的な仕組みは上記で紹介した通りですが、ここで押さえておきたいのはあくまでも「取引」であるということです。取引においては、排出枠を売る側である「供給者」と排出枠を購入する「需要者」が存在します。そして、需要と供給のバランスによって取引価格が変動することも意味するのです。

ヨーロッパにおける排出量取引価格

たとえば、ヨーロッパにおけるCO2排出量価格の推移を見てみると、2012年から2017年頃までは1トンあたりの価格が10ユーロ以下で推移していました。しかし、2018年には20ユーロを突破し、2019年から2020年にかけては30ユーロに迫る勢いに。そして、2021年になると過去に例がないほどの急激な伸びを見せ、すでに40ユーロを突破しています。もっとも安価であった2013年と比較した場合、10倍以上も取引価格が高騰していることになるのです。
<参考>https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL25B4F0V20C21A3000000/

日本における排出量取引価格

では、日本におけるCO2排出量の取引価格はどう推移しているのでしょうか。日本では現在、過去に運用されていた「国内クレジット制度」や「J-VER制度」が統合され、国の認証のもとで「J-クレジット制度」が運用されています。同制度を運用しているJ-クレジット制度事務局では、過去10回にわたってJ-クレジットの入札販売を実施しました。

第1回の入札販売が行われた2016年6月時点では、1トンあたりの平均落札価格は510円。その後、第2回、第3回の入札販売が行われるたびに落札平均価格は上昇していきます。2018年1月に実施された第4回の入札販売以降は、再生可能エネルギー発電由来のJ-クレジットと省エネ由来のJ-クレジットを分けて販売されるようになりました。ほとんどの実施回で入札倍率は2〜3倍を記録し、それに比例するように平均落札価格も上昇。再生可能エネルギー発電由来の平均落札価格は2,000円台を突破し、省エネ由来の平均落札価格も1,500円台を記録しています。

上記のデータを見ても、ヨーロッパでの排出量取引価格が高騰しているのと同様に、日本においても排出量取引価格は全体的に上昇傾向にあると推察できます。

<参考>https://japancredit.go.jp/data/pdf/credit_002.pdf

排出権取引におけるテスラの事例

排出権取引制度のもとでは、CO2の排出量を削減することが企業にとって利益に直結すると紹介しました。しかし、実際にどの程度の利益に結びつくのかイメージできないという方も多いはずです。企業規模によっても割り当てられる排出枠は異なり、経営に対するインパクトも違いますが、なかでも象徴的な事例といえるのが自動車メーカーのテスラです。

アメリカの大手自動車メーカーであるテスラは、EV(電気自動車)を開発・販売しています。従来のガソリンエンジン車とは異なりCO2を一切排出しないEVは、排出権取引制度において極めて有利です。テスラの2020年度の決算内容を見ても、排出権取引による利益は15億8,000万ドルにもおよび、日本円に換算すると約1,700億円という莫大な金額に達します。

EVにはさまざまな先進的な技術が求められ、製造するためには莫大なコストがかかります。2020年の売上高が315億3,600万ドル(約3兆3,000億円)であったにもかかわらず、最終利益が7億2,100万ドル(約750億円)に留まったことからも、その実態を鮮明に映し出しています。そして、仮に排出権取引制度がなかった場合、テスラは1,700億円の利益を手にすることができず、最終的に赤字に陥っていたことでしょう。

ちなみに、テスラ以外の多くの自動車メーカーでは、現時点でEVへの完全なシフト化が進んでいません。そのため、排出権取引による利益を稼ぎ出すことは難しく、むしろ追加で排出権を購入しなければならない立場です。テスラにとって排出権取引制度はメリットが多い一方で、ライバルともいえる大手自動車メーカーにとっては経営を圧迫するマイナス要因であるとも考えられるでしょう。

これは自動車業界に限ったことではなく、今後あらゆる産業で顕在化してくると考えられます。CO2削減をはじめとした環境問題に真剣に取り組む企業は収益を確保しやすく、従来のビジネスモデルから脱却できずCO2削減に取り組まない企業との差は大きくなるでしょう。

加えて、上記でも紹介した通り、排出権取引における価格は年々高騰しています。「現時点で日本は制度化されていないから、自社には関係ないだろう」と考えていても、将来的に制度が開始される可能性は否定できません。そのタイミングになってからCO2削減に取り組もうと考えても、すでに他社との差が開いている可能性もあるため、できるだけ早いタイミングで少しずつ準備を進めていくことが重要といえるでしょう。

<参考>https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN270OJ0X20C21A1000000/

排出権取引にも有効な太陽光発電

世界的な流れが加速している排出権取引制度。今後、日本における本格導入に備えて、自社でできることを今から準備しておきたいと考える経営者も多いはずです。国の認証のもとで運用されている「J-クレジット制度」は、CO2削減量または吸収量をJ-クレジットとよばれる排出権として取引することができます。

吸収量を増やすためには、主に森林管理などの方法が考えられますが、広大や土地を有していない企業にとっては現実的な方法とはいえません。そこで、多くの企業ではCO2を削減する方法を模索するのが現実的といえるでしょう。

CO2削減には、省エネ製品への買い替えやこまめな空調管理、断熱効果の見込めるリフォームなども有効です。また、もう一つの方法として自家消費を目的とした再生可能エネルギーの活用も挙げられます。CO2排出量の内訳を見たとき、もっとも大きな比率を占めるのが発電によるものです。電力会社から購入する電気は火力発電によって発電されているものも多く、電気の消費量が増えれば増えるほど火力発電の需要が増え、結果的にCO2排出量も増加します。そこで、各企業が自社で使用する電力を自社で賄うことで、火力発電によるCO2排出量の削減につながります。

自家消費を前提とした発電にはさまざまな方法がありますが、なかでも注目されているのが太陽光発電です。オフィスや工場の屋根または屋上、土地などにソーラーパネルを設置することで、電力会社からの供給に頼ることなく電力を確保できます。これにより、実質的なCO2排出量を削減でき、事業規模によっては排出権取引によって多額の利益を得ることもできるでしょう。

また、電気料金として支払うコストも大幅に抑えられるため、排出権取引で得られる利益との相乗効果でさらに経営効率のアップが見込めます。

まとめ

CO2の排出枠を売買するという新たな概念である排出権取引。日本国内では一部限定的に運用されているのが現状ですが、ヨーロッパを中心に国全体で積極的に推進している国も存在します。もはや世界的な潮流ともいえ、今後日本でも排出権取引が制度化される可能性は否定できません。

企業の取り組み次第では新たなビジネスチャンスにつながるとも考えられますが、制度が開始されるタイミングで慌てて準備をしても間に合わない可能性があります。まずは自社でできることから着実に進めていき、徐々に規模を拡大していくのが堅実な道といえるでしょう。

そのための第一歩として、太陽光発電設備の導入は有効な方法です。ランニングコストの削減につながり経営効率のアップも見込めるため、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。