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CO2の排出権取引とは何か?日本における取り組みの現状も解説

更新日:2021.11.09

SDGs・脱炭素

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社会的課題として環境問題が注目されるなか、有効的な対策のひとつにCO2の排出権取引が挙げられます。
日本では2000年代に入ってから検討されるようになり、一部の自治体では運用実績もあります。

しかし、そもそもCO2の排出権取引とはどのような仕組みの制度なのかよく分からず、それによってどのようなメリットがあるのか分かりづらいという方も少なくありません。

そこで今回は、CO2排出権取引とはどのような制度なのか、メリットやデメリットも含めて詳しく解説します。

CO2の排出権取引とは

CO2の排出権取引を理解する前提として、排出権とは何かを押さえておかなければなりません。

排出権取引が制度化されている国や自治体においては、企業などに対してあらかじめ温室効果ガスの排出枠が定められています。

そして、各企業は自社に割り当てられた排出枠に収まるよう、温室効果ガスの排出量を抑制しなければなりません。

しかし、企業によっては排出枠に余裕があるケースもあれば、排出枠を大幅に超過してしまう場合もあるでしょう。
そこで、排出量の上限に余裕がある企業が、排出量と上限との差分について他社へ売却できる制度が生まれました。
このように、排出枠との差分を企業間で取引できる権利のことを排出権とよびます。排出権取引とはその名の通り、実際に排出権を取引することを意味します。

なお、排出権取引のことを「排出量取引」とよぶ場合もあります。

国内排出量取引制度とは

CO2の排出権取引は世界のさまざまな国で進められていますが、日本では「国内排出量取引制度」という名称で検討されています。環境省を中心に検討されているこの制度は、「キャップアンドトレード制度」ともよばれます。ちなみに、”キャップ”とはCO2の排出枠のことを意味する言葉です。

国内排出量取引制度が実現すると、企業に対してCO2排出量の上限を明確に設定でき、排出量削減目標を達成できる可能性が高まります。国や自治体によってもCO2の排出権取引の名称や制度は多少異なるものの、全体としてのCO2排出量を削減することが最大の目的であるといえるでしょう。

国内排出量取引制度のメリット

日本が今後、国内排出量取引制度の運用を開始した場合、企業や社会全体にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。主なポイントとして3つのメリットを解説しましょう。

公平なルールの下での運用が可能

CO2の削減が社会的な共通の課題であると認識していても、国や自治体が企業に対して削減を要請するだけでは効果が見込めるとは限りません。

仮に、環境配慮型の経営を実行し、企業努力でCO2の削減が達成できたとしても、その他の企業が従来通りの経営を行っていたのでは全体としてのCO2削減にはつながらないでしょう。

また、人員やコストをかけてCO2を削減したにもかかわらず、それに見合った経営上のメリットがなければ公平なルールとはいえません。
国内排出量取引制度は、企業ごとの排出枠を取引することで、環境配慮型の経営に努力した企業が報われる公平な制度といえるでしょう。

CO2削減にかかる公的なコストを抑えられる

企業間の公平性を担保するために、一定のCO2削減を達成した企業に対して税制面での優遇や金銭的支援を行う方法もあります。

しかし、公平なルールは担保できますが、国や自治体が制度を運用する以上、金銭的コストの原資は税金となります。企業の取り組み次第では莫大な税金を要することから、社会的なメリットとしては一長一短といえるでしょう。

国内排出量取引制度の下では、企業間で排出枠を取引することになるため、税金の負担が増大するリスクも低く社会的メリットは大きいと考えられます。

環境配慮型のビジネスモデルや製品の需要が増加する

企業がCO2の排出量を抑えられれば、排出枠を他社と売買することができるため、環境配慮型の経営に積極的に取り組む企業が増えるでしょう。

その結果、省エネ関連製品やサービスの需要が一気に高まり、新たなビジネスモデルが誕生することも期待できます。

たとえば、現在導入が増えている太陽光発電設備も、省エネ関連製品の代表的な存在に数えられ、さらに省エネ関連のビジネスが拡大することにより経済全体への波及効果も期待できるでしょう。

国内排出量取引制度のデメリット

上記で紹介した通り、国内排出量取引制度にはさまざまなメリットがあります。

しかし、必ずしもメリットばかりとは限らず、デメリットが存在することも事実。具体的にどのような懸念が生じるのか、デメリットとして考えられるポイントを2つ紹介しましょう。

排出枠の設定が難しい

国内排出量取引制度のもっとも大きな課題は、企業ごとにどの程度の排出枠を設定すべきかを検討するのが難しいことです。

たとえば、排出枠に余裕がありすぎると多くの企業が上限まで達しないことになるため、排出権取引の市場としては売り手過多になってしまいます。
一方で、あまりにも排出枠を低く設定してしまうと、企業にとってCO2削減のためのコストが増大し経営を圧迫してしまうでしょう。

CO2排出枠を企業間で適正に取引するためには、適正な排出枠が設定されていることが大前提といえます。この前提が崩れてしまうと、そもそも排出枠の取引が成立せず、全体としてCO2の削減が見込めなくなる可能性もあるのです。

国外へ移転する企業が出てくる

国内排出量取引制度は日本が今後導入を検討している制度ですが、国によってもCO2排出権の取引制度は異なります。経済のグローバル化が進んでいる現在、生産拠点を日本国内から海外へ移転する企業は少なくありません。

その裏には人件費の問題や税制上の優遇措置、サプライチェーンの構築のしやすさなど、さまざまな理由が存在します。国内排出量取引制度は、もともと環境配慮型の経営を行ってきた企業にとってはメリットの大きい制度といえるでしょう。

しかし、すべての企業はそうとは限らず、なかには排出枠内に収められることが困難な企業もあります。

日本で実際に国内排出量取引制度が実現されると、排出枠内に収められない企業は国内での事業を諦め、海外へ移転するという選択肢をとる可能性も考えられます。海外へ生産拠点が移ると、国内の雇用環境悪化や税収の減少など、さまざまな面で影響が及ぶ可能性もあるのです。

日本におけるこれまでのCO2排出権取引の実績

国内排出量取引制度は検討段階であり、今後国として制度を運用していくかは正式に決定していません。

しかし、自治体単位で見てみると、東京都と埼玉県は独自のCO2排出権取引を制度化し運用した実績があります。
東京都は「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」、埼玉県は「目標設定型排出量取引制度」という名称で5年ごとに対象期間を設けて実施しており、オフィスビルや工場など、事業所に合わせて削減義務率を設定しています。

運用結果としては、東京都の場合は2011年度に-23%、埼玉県の場合は2010年度に-17.8%のCO2削減を達成しました。

ただし、東京都・埼玉県いずれの制度も、対象となっていた事業所は年間のエネルギー使用量(原油換算)が1,500kL以上のオフィスビルや工場などに限られます。
東京都であれば1,200の事業所が該当し、それ以外の中小規模事業所は当該制度の対象外となります。

日本国内でCO2排出権取引は定着するのか

今回紹介してきたように、CO2排出権取引にはさまざまなメリット・デメリットがあります。

そのため、日本全体で国内排出量取引制度を運用するためには、どの程度の範囲を対象とするか慎重な検討が必要といえるでしょう。

また、導入する場合においても、排出枠の設定は極めて慎重に行う必要があり、一度設定して終わりではなく、社会的な情勢や各企業の取り組みなども加味しながら調整していくことが重要です。