SDGs・脱炭素
太陽光発電事業の運営にあたっては、これまで固定価格買取(FIT)制度が運用されてきました。この制度によって日本では再生可能エネルギーが普及することとなりましたが、FIT制度は固定価格での買取期間が10年と定められています。そこで、FIT制度の実質的な後継施策として予定されているのが「FIP制度」とよばれるものです。
今回の記事では、そもそもFIP制度とはどのような制度なのか、従来のFIT制度との違い、FIP制度が始まることによって、太陽光発電事業者にはどのようなメリット・デメリットがあるのかも含めて詳しく解説します。
目次
石油や天然ガスといった資源に乏しい日本では、エネルギー資源を国内で調達することが難しく、大きな課題とされてきました。石油資源を海外からの輸入に頼っている現状では、世界の情勢によって価格が高騰した際に、国民生活に大きな影響を及ぼしてしまいます。特に、エネルギーのなかでも大きな割合を占める火力発電では、これらの天然資源は欠かせない存在です。いわば日本国内における電力供給は、海外から輸入される資源に依存している状態といっても過言ではないでしょう。
しかし、不安定な世界情勢を鑑みたとき、他国から輸入される資源に頼り切っている現状は適切とはいえません。また、CO2をはじめとした温室効果ガスの排出量増加にともない、企業に対しては環境配慮型の経営が求められています。
政府は2012年から再生可能エネルギーの普及を促進するために、固定価格買取(FIT)制度を導入しました。再生可能エネルギーは価格が変動しやすく、発電事業者にとっては収益を安定的に確保するうえで大きなリスクを伴います。そこで、太陽光をはじめとした再生可能エネルギーに対し、あらかじめ一定の価格を設定しておき、発電事業者が安定した売電収益を得られるようにしたのです。これにより、本来であれば大きなリスクを伴う再生可能エネルギーの発電事業に参入する事業者が一気に増加しました。
しかし、もともとFIT制度は10年という限られた期間内で固定価格での買取を行う施策であり、たとえば2012年からFIT制度をスタートさせた太陽光発電事業者は、2022年以降、順次固定価格での買取が終了していくことになります。
FIT制度によって再生可能エネルギーは一定の普及を達成できましたが、発電量全体に占める割合は決して高いとはいえず、主力電源化には程遠い現状です。また、政府は新たに「2050年カーボンニュートラル」の方針を打ち出し、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを宣言しました。
これを実現するためには、FIT制度の終了後も再生可能エネルギーの普及を持続的に推進するための新たな施策が必要です。そこで、政府は2020年6月に「FIP制度」の導入を決定し、2022年4月からスタートする予定となっています。
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では、そもそもFIP制度とはどのような施策なのでしょうか。
FIPとは「フィードインプレミアム(Feed-in Premium)」の略称で、再生可能エネルギーの売電価格に一定の「プレミアム」を上乗せするというものです。
FIP制度を正しく理解するうえで、押さえておきたいポイントが「基準価格」と「参照価格」です。基準価格とは別名「FIP価格」ともよばれ、売電収入の基準となる価格のことを指します。FIP制度の開始直後は、FIT制度における調達価格と基準価格を同程度の水準とすることが前提となっています。
一方、参照価格とは、プレミアムを算定するためのベースとなる価格のことです。一定期間の平均市場価格や電力需要などさまざまな要素によって決められ、1か月単位で随時見直される予定です。
すなわち、参照価格にプレミアム額を加算したものが売電価格となり、プレミアム額分が発電事業者にとっての利益となることになります。なお、プレミアム額も参照価格と同様に1か月単位で見直されます。
FIP制度は市場取引が基本となり、参照価格が1か月ごとに変動します。では、参照価格はどのような仕組みで決定されるのでしょうか。資源エネルギー庁では、FIP制度における参照価格は以下の方法で算出すると紹介しています。
①「卸電力市場」の価格に連動して算定された価格+②「非化石価値取引市場」の価格に連動して算定された価格-③バランシングコスト=参照価格(市場取引などの期待収入)
上記のなかの「非化石価値取引市場」とは、石油や天然ガスといった化石燃料を使用しない電力の取引市場のことを指し、太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーもこれに含まれます。すなわち、FIP制度の参照価格は卸電力市場と非化石価値取引市場の価格が考慮されたうえで決定するという仕組みです。
FIP制度の基本的な仕組みが分かったところで、従来のFIT制度とは何が変わるのか詳しく解説しましょう。
そもそもFIT制度は「固定価格買取制度」という名称のとおり、つねに価格は一定であることが特徴といえます。年度ごとに買取価格は改定されますが、改定後1年間は電力市場に関係なく一定の価格で取引されます。これに対しFIP制度は、これまでも紹介してきたとおり、市場価格に応じて参照価格が変動し、それに対して一定のプレミアム額が加算される仕組みとなっています。
さらに細かい制度部分までを比較してみると、「再エネ発電賦課金」の有無も大きな違いとして挙げられます。FIT制度を運用するにあたっては、固定価格での買取を維持するために再エネ発電賦課金が電気料金へ加算され、ユーザーから徴収されていました。しかし、固定価格と市場価格の差が大きければ大きいほど再エネ発電賦課金の負担額は増大し、国民生活を圧迫するといった問題が生じます。FIP制度においてもプレミアムの上乗せ分として一定の国民負担は生じますが、市場価格と連動するため、FIT制度に比べて負担額は低減できると期待されます。
今後、FIP制度が開始することで、太陽光発電事業者にとってはどのようなメリットが考えられるのでしょうか。また、FIT制度と比較した場合のデメリットや注意点についても詳しく解説しましょう。
市場価格に応じて売電価格が変動するFIP制度のもとでは、売電のタイミングを見極めることでより多くの収益を得られるようになります。たとえば、太陽光発電設備とは別に蓄電池を併設しておけば、需給バランスに応じて電力が高く売れるときに蓄電池の電力もあわせて売電することもできるでしょう。反対に、相場が低いときには売電せずに蓄電池へ電力を蓄えておいたり、太陽光発電設備のメンテナンスを行ったりすることもひとつの戦略として考えられます。
反対にFIP制度のデメリットとして考えられるポイントは、売電収入の長期的な予測が立てづらいことが挙げられるでしょう。FIT制度のもとでは、年度ごとに買取価格が決まっているため、年間を通しての収益予測が立てやすいメリットがありました。しかし、FIP制度のもとでは市場価格に応じて買取価格が変動することから、長期的に考えると予測が立てづらく、当初の予想よりも設備投資にかかった費用の回収に時間を要するリスクも考えられます。
これから太陽光発電事業への参入を検討するにあたっては、今後開始される予定のFIP制度について十分理解しておく必要があります。制度そのものは太陽光発電事業者にとって一定の利益を確保できる仕組みとなっているものの、従来のFIT制度とは根本的な仕組みが異なることから、戦略の立て直しが求められるケースもあるでしょう。
太陽光発電事業者にとってより多くの収益を確保するためには、太陽光発電設備だけでなく蓄電池などの設備も新たに導入したほうが良いことも考えられるため、さらなる設備投資の必要性も含めて十分検討しておきましょう。